後嚢破損(白内障手術合併症)眼内レンズ(アイハンス)嚢内固定
白内障手術の合併症である後嚢破損を起こした手術の動画です。
水晶体の袋(水晶体嚢)の後面である後嚢に何らかの原因で破損が生じた状態が後嚢破損(破嚢・PCR)です。
後嚢破損が生じると、一番、問題になるのは、眼内レンズを水晶体嚢の中に入れることが難しくなり多焦点レンズやトーリックレンズ(乱視矯正用レンズ)が使えなくなってしまうことです。また、白内障の濁りを取り切る前に後嚢破損が起こると白内障の濁りが硝子体側に落ち込み飛蚊症や炎症の原因になることや、硝子体が眼の前のスペースに出てくるため(硝子体脱出)、硝子体をハサミや硝子体カッター(A-Vit)という器具を使用し、出てきた硝子体を切除する必要があります。
今回の症例では、白内障の濁り(核)の超音波破砕吸引の操作中に後嚢が不意に浮かび上がり、吸引してしまったために、後嚢の破損を生じてしまいました。硝子体脱出が起こったので水晶体皮質(白内障の柔らかい濁り)や脱出した硝子体はA-Vitで切除吸引し、破損した後嚢の状態もよく、使用予定の眼内レンズもアイハンスだったため、水晶体嚢の中にレンズを挿入固定(嚢内固定)し、時間は20分ほどかかってしまいましたが結果的には予定の手術を行うことができました。後嚢の破損の状態にもよりますが、通常、後嚢破損が起こると、嚢内固定が難しく、水晶体嚢の前面(前嚢)と虹彩(茶目)の間にレンズを挿入固定する”嚢外固定”という方法を取らねばならなくなります。この嚢外固定に使うレンズは”3ピースレンズ”というレンズの本体の部分と支えの部分が別の素材でできているレンズを使う必要があり、単純な単焦点レンズは問題ありませんが、今、主に使われている多焦点レンズやトーリックレンズには3ピースレンズはないので(多焦点レンズでは2焦点タイプであることはありますが)、当初の予定のレンズから変更を余儀なくされる場合もあります。また、眼内レンズの度数計算は嚢内固定されることが前提で、嚢外固定になると、同じレンズ度数でも近視化するため、それを考慮せねばならず、若干、計算の精度が落ち、度数が予定よりもズレる可能性があるかと思います。