内膜症性嚢胞(ovarian chocolate cyst,endometoriotic cyst)
卵巣に発生。
厚い線維性被膜内にチョコレート様の粘稠な褐色の出血性内容物を含む。
悪性腫瘍の発生母地となることがある。
CA125が高値を示すことがある。
典型例のMR所見
T1強調像で高信号の嚢胞が多発(multiplicity):メトヘモグロビンのT1短縮効果に起因。
T2強調像での高信号〜低信号(shading):繰り返す出血と濃縮により高い粘稠度、蛋白濃度の上昇、ヘモジデリン、炎症によって生じた壁の線維化などに起因。
嚢胞壁は全周性に肥厚し、ヘモジデリンを貧食したマクロファージを含み、線維成分が豊富なことを反映し、T1・T2強調像ともに低信号を呈する厚い壁として認められることも特徴。
脂肪抑制T1強調像にて信号抑制されない。
3Tではshadingをより鋭敏に描出。
悪性転化することがある。
症例 40歳代女性
両側卵巣にT1WIにて高信号、脂肪抑制T1WIにおいても高信号の出血を疑う嚢胞あり。
左側はT2WIにてshadingを示唆するやや低信号を認めており、内膜症性嚢胞を疑う所見です。
右側は内膜症嚢胞の他、機能性出血の可能性あり。
合併症
内膜症性嚢胞の合併症としては、
捻転
破裂
癒着
感染合併
が挙げられます。
捻転
癒着のため比較的稀。急性、間歇性の下腹部痛。
完全な捻転を来すと、嚢胞壁の造影効果が消失する。
破裂
嚢胞内容の流出により腹膜炎(chemical peritonitis)を来たし、強い腹痛による急性腹症として発症。
出血性の腹水が時にCTにて高濃度、T1強調像にて高信号を呈する。
破綻した内膜症性嚢胞はやや緊満感に乏しい
癒着
よく認められる合併症。
広がりや程度は腹腔鏡にて診断される。
子宮の後屈や変形、病変と周囲臓器の間に介在する脂肪の消失、後膣円蓋の挙上、臓器間における線状・索状の線維性構造物、卵管留水腫や不自然な腹水の分布などが癒着の存在を示唆。
kissing ovary(両側卵巣の病変が癒着により 互いに向き合う状態)
腹膜病変の検出には、脂肪抑制併用T1強調像が必須の撮像法。周囲の脂肪組織と分離できるから。
癒着部位の中心や周囲には、脂肪抑制併用T1強調像で、色素性病変内の出血を示す小さな高信号域を認めることが多く、癒着と診断する際の有用な所見である。
感染合併
内膜症性嚢胞に感染を合併したもので、経腟的な検査や処置後に発症する。
画像所見としては、
既存の嚢胞の急激なサイズ増大
壁肥厚の増悪、輪郭不明瞭
内部信号の変化(T1WI高信号→低信号)
卵管留膿腫の併存
周囲脂肪織濃度上昇
が見られる。
参考文献:臨床放射線(2011):1505-1531