子宮体癌(uterine corpus cancer)
- 子宮内膜癌とも言う。
- 全子宮癌の10%を占める。
- 子宮体癌は右肩上がりに患者数は増大している。20年前の5倍。
- 子宮体癌が頸癌よりも多くなった。
- 50歳以上が8割。
- 20-30歳代も増えている。
- Ⅰ期が多い。なので比較的予後がよい癌といえる。
- 肥満は子宮体癌のリスク因子。BMIが5上昇するとリスクが60%上昇し、LKのタバコ並みのリスク因子と言われる。
- 糖尿病合併が多い。子宮体癌患者の6割に耐糖能異常あり。
- 子宮内膜由来の癌であり、9割は腺癌でエストロゲンによる刺激が発生に関与している。類内膜癌が最も多く80%以上をしめ、子宮内膜増殖症との関連が深い。
- 類内膜癌は、類内膜腺癌と扁平上皮への分化を伴う類内膜腺癌に分類される。
- 他の組織型としては、漿液性性腺癌、明細胞腺癌、粘液性腺癌、扁平上皮癌、混合癌、未分化癌がある。
- 特に、漿液性腺癌と明細胞腺癌はエストロゲンに依存せずに発生し悪性度の高い(低分化)傾向にある。(類内膜癌は悪性度は低く(中〜高分化が多い)、生物学的に安定していることが多いのとは対称的。)
- エストロゲンに依存する類内膜癌をⅠ型、依存せず予後不良な漿液性腺癌および明細胞腺癌をⅡ型と分類する。頻度は圧倒的に前者が多い。
- 閉経前や閉経前後に発症しやすい。エストロゲン依存性は比較的若年に多い。
- 不正性器出血、帯下、疼痛を主訴とする。
- 予後不良因子として、組織学的分化度がG3であること、子宮筋層浸潤が1/2以上、頸部浸潤、骨盤リンパ節転移、子宮外浸潤、付属器転移が挙げられる。
※類内膜癌は腺癌成分の形態によりGrade1,2,3,に分類される。詳細は、下の組織分化度分類。
子宮体部の組織分類(組織分化度と組織型)
- 子宮内膜増殖症(Endometrial hyperplasia)
- 子宮内膜異型増殖症(Atypical endometrial hyperplasia)
- 子宮内膜ポリープ(Endometrial polyp)
- 子宮内膜癌(Endometrial carcinoma)
A 類内膜腺癌(Endometrioid adenocarcinoma)
B 漿液性腺癌(Serous adenocarcinoma)
C 明細胞性腺癌(Clear cell adenocarcinoma)
D 粘液性腺癌(Mucinous adenocarcinoma)
E 扁平上皮癌(Squamous cell carcinoma)
F 移行上皮癌(Transitional cell carcinoma)
G 小細胞癌(Small cell carcinoma)
H 混合癌(Mixed carcinoma)
G 未分化癌(Undifferentiated carcinoma)
組織分化度分類
- 類内膜癌は腺癌成分の構造異型と細胞異型(特に核異型)の程度によりGrade1~3に分類される。
- ただし,この分類は類内膜腺癌のみに適応される。漿液性腺癌、明細胞腺癌、など特殊型癌は主に核異型により grade を判定するが統一基準はない。
Grade1:充実性増殖の占める割合が腺癌部分の5%以下であるもの
Grade2:充実性増殖の占める割合が腺癌部分の6~50%のもの。あるいは充実性増殖の割合が5%以下でも細胞異型の著しく強いもの。
Grade3:充実性増殖の占める割合が腺癌部分の50%を超えるもの。あるいは充実性増殖の割合が6~50%でも細胞異型の著しく強いもの。
(日本産科婦人科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会.子宮体癌取扱い規約.金原出版,1996)
子宮体癌 手術進行期分類
- Ⅰ期 癌が子宮体部に限局するもの
- ⅠA期 癌が子宮筋層1/2未満のもの
- ⅠB期 癌が子宮筋層1/2以上のもの
- Ⅱ期 癌が頸部間質に浸潤するが、子宮をこえていないもの
- Ⅲ期 癌が子宮外に広がるが、小骨盤をこえないもの、または所属リンパ節へ広がるもの
- ⅢA期 子宮漿膜ならびに/あるいは付属期を侵すもの
- ⅢB期 膣ならびに/あるいは子宮傍組織に広がるもの
- ⅢC期 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの
- ⅢC1期 骨盤リンパ節陽性のもの
- ⅢC2期 骨盤リンパ節への転移の有無にかかわらず、傍大動脈リンパ節転移陽性のもの
- Ⅳ期 癌が小骨盤をこえているか、明らかに膀胱ならびに/あるいは腸粘膜を侵すもの、ならびに/あるいは遠隔転移のあるもの
- ⅣA期 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤があるもの
- ⅣB期 腹腔内ならびに/あるいは、鼠径リンパ節転移を含む、遠隔転移のあるもの (日産婦 2011、FIGO 2008)
- ほとんどの症例はⅠ、Ⅱ期で診断(7割以上)までですることが多い。
- 特にⅠA>Ⅱ期が多い。なので予後が良い。
逆に言えば画像診断では、このⅠ期とⅡ期の診断をしっかりする必要があります。
そのため各病期のイメージをしっかり頭にいれましょう。
ⅠA期
ⅠB期
※筋層1/2以上に及ぶかどうかは子宮内腔に対して直交する軸(子宮体部短軸)の断面で最もよく描出されるため、輪切りにして評価します。
Ⅱ期
術後再発リスク因子
- 低リスク、中リスク、高リスクに分けられる。脈管侵襲以外は術前に画像および病理にて推定が可能。
- 中リスク以上には化学療法を施行する。
低リスク | EndometrioidG1,G2 +筋層浸潤1/2未満 +脈管侵襲なし +遠隔転移なし |
中リスク | EndometrioidG1,G2+筋層浸潤1/2以上 EndometrioidG3+筋層浸潤1/2未満 Non-endometrioid+筋層浸潤なし 脈管侵襲あり |
高リスク | EndometrioidG3+筋層浸潤1/2以上 Non-endometrioid+筋層浸潤あり 頸部浸潤・付属器転移・漿膜進展 膣浸潤 |
術前画像診断について
- US,MRI,CT,FDG-PETなどで術前画像診断を行う。
- MRIが局所進達診断に重要。
治療法選択にあたり画像で評価すること
- 筋層浸潤の有無について(ないのか、あるならば1/2を超えるか超えないか)
- 頸部浸潤の有無(ただし非常に難しい)
- リンパ節腫大の有無。
- 子宮外病変の有無。
- 血栓スクリーニング。
子宮体癌のMRI画像診断
- 内膜癌は正常内膜に比べT2WIで軽度低信号、筋層に比べ高信号を呈する。
- 内膜肥厚の有無は重要であるが、正常範囲のこともある。
- 内膜癌のADC値は正常内膜や内膜増殖症や内膜ポリープなどの良性内膜病変よりも低い。 (Tamai.JMRI 2007.26)
- T1WIで病変は内膜、筋層と等信号。造影にて、内膜よりも高信号、筋層よりも低信号に造影される。
筋層浸潤について
- 筋層浸潤の有無の判断→T2強調像とSEEが有用。
- 筋層の1/2を超えるか超えないかの判断→DWIと造影後期層が有用。
- ダイナミックの早期相で内膜筋層境界にSEE(subendometorial enhancement)と呼ばれる造影効果がみられ、SEEが全周に保たれていれば筋層浸潤はなしと判断できる。
- SEEが見えていてもガタガタしている→腫瘍が筋層に浸潤していると判断する。
※ただし、SEEは半分程度の症例にしか見られない。また造影によるムラを生じることもある。腫瘍辺縁部分に強い濃染を認める場合がある(56%)。若年者は見えにくい傾向にあり。
- T2WIでjunctional zone(JZ)が保たれていれば、筋層内浸潤なしと診断する。
※ただし、閉経後でjunctional zoneがそもそも描出されないことがある。その場合は、病変と筋層の境界が整であれば浸潤の可能性は低い。またJZが保たれていてもびまん性に浸潤している場合もある。
症例 50歳代女性 子宮体癌(扁平上皮癌への分化を伴う類内膜癌 pT1aN0M0)
子宮体部筋層浸潤
- 筋層浸潤が深ければ、施設によっては傍大動脈領域のリンパ節郭清を行なう。つまり術式に関わるので筋層浸潤を評価することが重要。
・T2WIのみ→accuracy 55-77%
・T2WI+dynamicMRI→accuracy 85-91%
(Yamashita Y.Radiology 1993:186,Manfredi R.Radiology 2004.231)
・Dynamic MRI→accuracy 74.1%
・DWI →accuracy 61.9%
(Shen SH.AJR 2008.190)
つまり、T2WIのみではなく、ダイナミック、DWIを加えた方が正診率は上がるということ。
- 造影効果:正常内膜 ≧ 内膜ポリープ>子宮体癌 なので、造影でよくわかる。
- ADCの低下があれば癌の可能性が上がる。(ADC値<1ならより癌の可能性あり)
※しかし、T2WI+DWIと造影剤を加えたものに有意な差がないという報告あり。(つまりDWIあれば問題なくて、造影はいらないでしょ!という人もいる。)→とはいうものの、空間分解能、susceptibility articfact、DWIで高信号にならない癌もあるので、過信してはいけない。
つまり、T2WIとDWI(ADC)と造影はやはり3つあったほうが診断能は上がると考えたほうが無難でしょう。
子宮体癌の頸部浸潤のMRIによる評価
- 頸管腺のみの浸潤であればⅠ期
- 頸部間質浸潤があればⅡ期 (FIGOや取扱い規約より)
- 頸部間質浸潤があればⅡ期となり、治療が異なるので診断は非常に需要。
- 良好な診断能が報告されている。しかし、診断は非常に難しい。
- この頸管腺と頸部間質についてMRI画像では、
頸部の淡い高信号=頸管上皮
頸部の低信号=頸管間質
と解釈されてきた。
これまで考えられてきた頸部浸潤のMRI評価方法
- T2WIで頸部間質の低信号部位への腫瘍の進展がなければ頸部間質浸潤はない。
- 頸管に腫瘍の進展があってもMRIの画像で頸部間質との境界が平滑な場合は頸部間質浸潤はなく、境界が不整な場合には頸部間質浸潤とする。
- ダイナミックで頸管上皮の造影効果に断裂がなければ間質浸潤はない。断裂があれば浸潤ありとする。
子宮体癌の頸部浸潤についてのMRI評価の限界
- MRIで見られるT2WI淡い高信号の頸管上皮には頸部間質も存在する。
- つまりMRIで認める頸管上皮=頸部間質も含めた頸管腺の存在する領域を表している。
- つまり組織学的な頸管腺と頸部間質の境界はMRIでの頸管上皮と頸部間質の境界とは異なる。
- つまり、MRIでは、過小評価(実際は間質浸潤している(Ⅱ期)のに、していない(Ⅰ期)と評価)する危険がある。
- 頸部への浸潤がなくてもポリープ様に突出している場合でもT2WIでの頸管上皮の高信号は圧排により簡単に消失するのも問題。
- MRI上の頸部間質への浸潤がなくてもMRI上の頸管上皮の一部への浸潤が強く疑われる場合には、Ⅱ期とした方がbetterか。(頸部に突出する腫瘤がさほど大きくなくてもダイナミックにおける頸部上皮の造影効果の一部欠損が明瞭な場合など)
子宮峡部発生の腫瘍
- 基本的に体癌は底部側に多く、峡部は少ない。
- 子宮頚癌か体癌かによって病期は全く異なる。
- また体部からポリープ状に垂れているだけの場合もあり、その場合はⅠ期に分類され、単純子宮全摘の適応となるので判別は重要。
- 子宮峡部の腫瘍は基本的には体癌として扱う。
- 峡部発生子宮内膜癌は通常の内膜癌より若年に発生し、予後が悪い。
- 峡部発生体癌の約30%はLynch症候群に合併する。またLynch症候群の13%が峡部発生する。
- 頚癌か体癌かを決定するのが難しい場合は、腺癌なら体癌に、扁平上皮癌なら頚癌に分類する。(扁平上皮癌・粘液性腺癌なら頸癌、類内膜腺癌なら体癌、漿液性腺癌なら体癌>頸癌の可能性が高い。)
Lynch症候群(リンチ症候群)
- ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2)の変異によるマイクロサテライト不安定性を原因とする家族性腫瘍。
- 常染色体優性遺伝。
- 大腸癌、子宮体癌、腎盂癌、卵巣癌などを生じやすい。特に前者二つが重要。
- 子宮体癌は峡部に発生することが有名で、これをみたら、家族歴や大腸のチェックとともに遺伝カウンセリングを考慮。
子宮体癌のリンパ節転移
所属リンパ節
- 骨盤リンパ節(基靭帯、仙骨、閉鎖、内腸骨、外腸骨、総腸骨)
- 傍大動脈リンパ節。
- 短径10mm以上を転移とするのが最も一般的。円形であったり、リンパ門の脂肪の消失があればより疑わしい。
- 筋層浸潤が浅層のみの場合リンパ節転移は3%、深層まで見られる場合は46%で見られた。(Berman ML.Am I Obstet Gynecol.1980)
- 筋層浸潤が1/2以上の場合、それ以下に比べるとリンパ節転移は6-7倍多い(Creasman WT.Cancer.1987:60)
子宮体癌の治療
- 治療は、単純子宮全摘術+両側付属器切除+後腹膜リンパ節郭清が基本。
※ただし後腹膜リンパ節郭清については、中〜高リスクには郭清を考慮する程度。郭清の有無で予後に差がなかったとの報告あり。
※類内膜腺癌ではリンパ節郭清をせず、予後が悪いとされる類内膜腺癌以外の組織型の場合はリンパ節郭清をするという考えもあり。
- これにオプションとして、妊孕性温存療法(ホルモン療法)、Ⅱ期ならば準広汎〜広汎子宮全摘、リンパ節郭清を追加する。
- これに加えて、子宮体癌や卵巣癌(明細胞癌)では血栓を合併しやすいため、血栓スクリーニング(D-dimmer>1)を施行の上、造影CTにて深部静脈血栓、肺動脈血栓の有無をチェックする。ある場合はIVCフィルター留置をする。
- 妊孕性温存療法の適応としては、病理診断にて高分化型類内膜腺癌、異型内膜増殖症に限られる。またMRI、CT、USで子宮内膜に腫瘍が限局していることが必要。年齢的な限界もあり、血栓症のリスク患者には適応とならない。
- 妊孕性温存療法は、Medroxprogesteron(MPA)の投与と掻爬による。
- 妊孕性温存療法はあくまで一時的な治療であり、30%で妊娠できるが、再発が80%にあるため、出産後に根治手術をする必要がある。
- 広汎子宮全摘は膣や子宮傍組織も切除し、排尿障害や排便障害を生じることがあり、やる場合はきちんと診断してから。